酒呑み親父のよもやま噺

探求心旺盛な酒呑み親父の随想録

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夏の夜、時折父が蚊帳の外の広縁に天体望遠鏡を持って来て月を見せてくれることがあった。

昭和30年代の終りの頃だったと思う。

明かりのない夏の夜の静寂の中で見る月は、実に神秘的で、もしかするとここには本当に兎がいて餅搗きをしているのではないかと思ったものである。

それから間もなく人類は月面に立った。
テレビに映し出される月面には兎などいなかった。

荒涼とした砂漠のような世界が広がっていた。

月面を飛び跳ねるように歩く宇宙飛行士たちの姿を見ながら、ここが本当にあの時父が見せてくれた月の世界なのだろうかと不思議な気持ちになった。

科学の進歩と反比例するように、子供たちの「夢」は失われて行く。