食卓に並べられた料理にたかる蠅を払いながら食事をしていた時代があった。
夏ともなると無数の黒蝿や金蠅が食卓の周りを飛び交った。
そのが当然の光景だったので,取り立てて汚いとも思わなかった。
家の中には「虫」がいるものだと思っていた時代である。
食卓の天井からは「蠅取り紙」がぶら下がっていて,「蠅取り紙」に付いて蠢く蠅を観察した。
「蠅取り紙」に付いて微かに蠢く蝿を見ながら,この蝿たちは死ぬのだろうなと思っていた。
何となく儚い思いを抱きながら「蠅取り紙」に蠢く蝿を見ていたのだ。
今の子供たちは「蠅取り紙」どころか「蠅」そのものを知らない。
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