「五右衛門風呂」という鉄でできた釜風呂があった。
あの大泥棒石川五右衛門が釜茹での刑にされたところから名前が付けられたようだ。
風呂を沸かすのはわが家では曽祖母の仕事だった。
家中のゴミ箱を風呂の焚き口に集めて焚き付けにした。
風呂に入る時には,家の中の手の空いた者が風呂番をした。
お湯が足らなくなったりぬるくなったら焚き口にいる風呂番にもっと焚いてくれと言った。
熱くなりすぎたら火を控えてくれと言った。
思えば,風呂に入るということひとつにも家族総出で交代しながら取り掛かっていた。
今のように,銘々が好きな時間に好き勝手に風呂に入れるような時代ではなかったのである。
今よりも家族が盛んに会話しながら生活していた時代だった。