たいていの町には「氷屋」があった。
製氷機で作った大きな氷を,筵で包んで自転車の後ろに括り付けて各家庭に配達した。
必要分の氷を大きな鋸で切ると「ザッザッ」という心地よい音がして氷の破片が飛び散る。
冷たい氷の破片を頬に浴びながら,氷を切る光景を見るのが楽しみだった。
各家庭には「氷冷蔵庫」があった。
文字通り氷で冷やす冷蔵庫で,一番上の蓋を開けて氷を入れておくのである。
氷屋が毎日氷を配達してくれた。
電気冷蔵庫が普及するまでは,この「氷冷蔵庫」が一般的だった。
「三種の神器」などと言って電気冷蔵庫,電気洗濯機,白黒テレビが各家庭に普及するのはもう少し後のことだった。