「鉄人28号」という子ども向けの漫画があった。
鉄人は,第二次世界対戦中に大日本帝国陸軍によって開発された最終兵器であるということを知っている人は少ないかも知れない。
「戦艦大和」や「零式艦上戦闘機」とともに作られた戦争のための兵器だったのである。
敗戦によって鉄人が実際に戦争に使用されることはなかった。
漫画は,解体を免れた鉄人を金田正太郎という少年がリモコンを持って操縦し「悪」に立ち向かうという設定なのであるが,リモコンが悪者たちの手に渡ると,手のひらを返したように鉄人は「悪」の手先として使われるのだ。
つまり,「鉄人28号」というヒーロー自体は,何の意志も持たない単なる「兵器」にすぎないのである。
操縦する人間によって「正義」にも「悪」にもなり得るというヒーローを後にも先にも見たことがない。
「鉄人28号」は半世紀前にして既に,「如何なる大義名分も,それを立てようとする人間の気持ち次第で善悪の方向性が決定するのだ」という示唆を人々に与えていたのかも知れない。
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