夏の夜,家中の障子や雨戸を開け放ち,蚊帳を吊って寝た時代があった。
襖や障子を開け放して蚊帳を吊るので,蚊帳の外は屋外と同じ状態になるのだ。
部屋のわずかな光に誘われて様々な昆虫が蚊帳の外に集まって来た。
子供たちは蚊帳の外に集まる昆虫たちを眺めながら眠りについたものである。
昆虫の世界と人間の世界が,蚊帳一枚を隔てて夏の夜の空間に存在する…。
蚊帳の埃臭い香りと蚊取り線香の香りに包まれて,蚊帳の中に不思議な世界を感じていた。
エアコンの普及とともに蚊帳は姿を消した。
同時にその不思議な世界もなくなってしまった。