第1歌集『水葬物語』
昭和26年8月7日(メトード社)A5版和装(袋綴・四ツ目綴)カバー附116頁
印刷:高柳年雄 製本:池上浩山人 120部印刷(114番本) 頒価500円
本文組:3首/頁(1首2行 20字/行)
塚本邦雄の序数歌集の蒐集で一番の「キキメ」は,発行部数が120部の『水葬物語』であろう。
処女歌集を発行するにあたって,塚本自身がなぜこのような発行部数にしたのかは知るよしもない。
理由はわからないが,作品ができるだけ多くの人の目に止まって欲しいという思いはなかったのだろうと考える他ない。
おそらく,その大部分は販売されることなく著名人向けの「献呈本」になったと思われる。
事実,寺山修司宛のものは,青森の「寺山修司記念館」の書架で見かけたし,前後の状況から中井英夫や三島由紀夫宛のものも存在すると考えられるのだ。
『水葬物語』を初めて手にしたのは,東京神田の古書店が「古本まつり」か何かで発行した古書目録の中に「田村書店」が出品したものであった。
本冊にかかる「カバー」は無かったし,「署名」などの揮毫もなかった。
しかし,この歌集についてはもう二度と出会えないかも知れないのだ。
あわてて問い合わせると在庫があったので,半ば衝動買いをした。
それから数年後,画像の『水葬物語』は,東京大田区にあった「龍生書林」が発行する「古書目録りゅうせい」から入手したものである。
私が手にした2冊目の『水葬物語』ということになる。
この歌集が古書目録に登場すること自体稀なのだが,目録を見たときには目を疑った。
奇跡的に貴重な「カバー」が完全に残っており,当時の筆と思われる「歌(献呈・落款)」入りである。
禁獵のふれが解かれし鈍色の野に眸ふせる少年と蛾と 落款 『水葬物語』所収
価格もなかなかのものだったが,ここで入手しないと次にいつこのような機会が訪れるかわからない。
後先考えず,半ば衝動的に注文の電話をかけたことを覚えている。
『水葬物語』については,思えばいつも「衝動買い」であった。
龍生書林は数年前に閉店してしまった。
「古書目録りゅうせい」が数十冊と,この『水葬物語』が私の手元に残った。
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